九月
昨年に引きつづき要請があった信大人文学部非常勤講師として、七月二十七日、県歌「信濃の国」のコピーを聴講生に配布した。殆どが他県より遊学している諸君だから、尚更覚えて欲しいと言い足す。
県歌のなかで詠まれている人物地名のいくつかが、古川柳にあるから、大いに参考になるわけで、解説しながら少し歌って見せた。
老いを沸かし さても
学びの庭に起ち
を披露、諄々と説き明かしつつ、私も共に学びとろうと、謙虚に彼我のつなぎを願うのであった。聴くもの、説くものも一緒に学び合う意気に燃えたいのだ。
俳句と川柳との違いは発生年代に鑑み、相対応した句を並べて鑑賞してゆく。
声よわる夕暮淋し
森の蝉 夏目 成美
せみがなき出すとお世話に
なりました 柳多留一五
男じゃといわれた疵が
雪を知り 柳多留初篇
雪明りあかるき閨は
又寒し 建部 巣兆
小さきもののたたずまいでは
蜻蛉は石の地蔵に
髪を結ひ 柳多留一九
蟷螂や露引きこぼす
萩の枝 立花 北枝
話しているなかで、ちょっと気休めに江戸小咄でくすぐらせたいのだが舌耕甚だおぼつかなく、何か知ら通ぜぬ不甲斐なさ。
郷土に触れて柳多留五六篇の天白両社奉額のいきさつ、そして松本発行の「古今田舎樽」、十返舎一九序文。
高見甚左衛門は天明四年十月二十八日生まれ。先父の子が兄幸助自分は先父歿後のあとの父を持ち幼名菊二郎(寛政十年)翌年与市に変わる。「古今田舎樽」は出版年月を明記していないが、発行人は嶋屋与市板とある。
選者田舎坊左右児が文化二年四月他界を偲んで上梓したと本書に述べておるところから、甚左衛門の若き日の出版と掛かり合いの事情を明かす。
文化二年九月に高見家志げと祝言、姓を改む。
七月二十九日、三十一日を古川柳に意を注いで軒昂。