七月

 待っていてわるい気がして、でも七月になると東京から朝顔が毎年届けられる。亡き甥の連れ合いのご好意で感謝している。
 入谷の朝顔市で、きちんとはまる包装箱に入れられ、なつかしい贈り物。
 日盛りの最中、葉のぐったりした時に充分水をやってくださいと、荷札に書いてあるので、精々米のとぎ汁、日なた水を掛けてやる。
 紫、白、紅と、朝の目覚めに彩りを添えてすがすがしい。この市が終わると、浅草のほおずき市があると聞き、その賑やかさを思い浮かべる。「四万六千日」で、この日に参詣すると百二十七年間も日参した同じご利益があると言われる。
 偶々、石川一郎さんから浅草のれん会機関誌「浅草」を戴いた。中に浅草イラストマップの漫画があり、虫メガネで見て下さいと説明がつく。店の名前と職業を現わす画が面白い。
 うちにもどこかあるぞと、さがしたら、紫花菱編「浅草絵図」だが、明治三十一年五月一日現在のもの。これはとても細かい。
 店舗だけ、職業採集記号が別についていて興味深い。約二百種でその略称画が奇抜だ。判断してゆく過程が楽しめる。
 「浅草」だが、野間口満也の「正弁丹吾亭と駒形どぜう」を見ると、大阪の法善寺横丁の酒亭にふれ、織田作之助、森重久弥、淡島千景、藤島恒夫の名前が出て来たりして、曽遊の地が恋いしい。
 そんなとき、大阪から送って下さる「川柳瓦版」七月号の(うらがき)で、近頃の中学生の暴力沙汰を嘆いているが、でも明るい話を聞いたとあり「修学旅行で奈良を訪れた、長野県のある中学の生徒が泊った旅館でのことである。朝、廊下や、トイレまで、全員で拭き掃除をして、主人を驚かせた云々」
 高田好胤の随筆だったか、見学中の長野県の学生は質問が絶えないから感心するとあった。
 私は昭和七年、師事する麻生路郎を初めて訪ね、畏れ入ったつもりで沈思していたら、すかさず「こんなに遠いところまで来て、なんだ、口数の少ないのはけしからん」と怒鳴られてしまった。