一月

▼欲のない人に限ってくじが当たるといって、連れて行った子供が福引交換所で立ち会うことがあって、それが運よく一等になったりして、一層子供が重宝がられ、大売り出しには兎角引っ張り回された思い出を持つ。
▼射幸心をそそるいまの宝くじには、滅多に子供の出番はない。正に大人ばかりに決まっている。私の家のすぐ隣は宝くじ売り場だから、発売の時間になると、朝早くから並ぶ。ジャンボくじには予約券を持った人たちが長蛇の列をつくるから誠に賑やかで、勇んだ顔が見られる。晴れがましい。
▼今度の一等に当たった人が、それと分かってから、じっとしておれず、落ち着かないまま、その券の保存に腐心し、換金まで冷蔵庫のなかに入れ、万一の火災からまぬがれるようにと工夫したそうだが、その心中察するにあまりある。
▼松本でも一等が当たった話で持ちきり、その売り場は縁起よいとばかり、連日ワンサン押し掛けて買っている。
   ジャンボくじ買いそこなって
      損はせず   伊藤栄
▼当たらない人たちは幾許かの損失は止むを得ないだろうが、それを夢と観じて泰然自若、いささかも乱れない。その意気やよし、予約券もなく、買いそびれた人の居直りの川柳だが、その通りでさっぱりしている負け惜しみ。
▼年賀状の印刷を注文したお客に年末謝恩セール抽せん券を進呈するサービスは評判がよく、三枚に一本ワインが当たる仕組みで、当たる確率が高いから気軽なくじであるようだ。
▼隣の宝くじ売り場にいる顔馴染みの人が、この抽せんに当たり、何だか当然の証のごとく、くじにまつわる魔力を持っているのかと思ったりした。
▼毎年注文してくれるバーのマダムが当たった。年賀状の印刷が出来たとき、夜になってから家内に持って行って貰ったが、当たった高級ワインを近くだから、私が何となく届けに行った。
▼丁度客と軽やかにダンスをしているところを中断、快くお礼の言葉をいただいた。丁寧だった。
▼私は一度も宝くじを買ったためしがない。心はやや無である。