十二月

▼作家の幸田文さんはたいへん動物好きな方で、ときどき上野動物園にも出掛けられる。ある日、その幸田文さんから「助けて」という電話がかかってきた。かけつけてみると、エントツに小鳥が巣をつくっているらしい。火をつけたら死んでしまうから助けてやって、というのである。さっそく調べてみると、コムクドリが二羽エントツにはいって上がれなくなってしまっていることがわかった。助けだして、日の暮れかかるのを待って放してやったら「ケロ、ケロ」と鳴いて飛び去った。西山登志雄「動物賛歌」にある一項だが。
▼私の店先にバタバタ羽搏く鳩が慌てふためいている。どうも近所の社や寺の境内に棲む種族ではないらしく、旅からのはぐれ鳥と思われた。腹を減らして疲れはてたのだろう、先ず餌を与え、水が入った器を添えた。
▼箱のなかに入れ、一晩休養してから放してやるのがよいと、みんなで相談したが、いざ飛んで行って貰おうと誘っても、ためらい勝ちである。
▼ふと気がついたのだが、脚に巻きつけた標識に番号がある。伝書鳩だとわかった。地元にあるアルプス公園小鳥と小動物の森管理事務所に電話で聞いたら、伝書鳩登録番号がわかる協会に訊ねてみるからとのこと。
▼まもなく返事があり、この伝書鳩岐阜県瑞浪市在住のひとの飼っていることが判明した。そんならもう少し元気になってからと、身を休ませてやることにした。
▼晴れた日、さっと開放すると、元気颯爽、まことに快い首途だ。瑞浪方面、南西目掛けて翔び立った。幾時間したら飼い主のもとへ戻って行けるのだろうと指折り数えもした
▼だが意外である、三日経て私の店をまた訪れた。目的地に着かなかった。また箱のなかへ入れた。上からのぞくと、彼奴、仰ぎ向く挨拶だ。
▼三日過ぎて、もう心を入れ代えたろう、そう信じて青空高く舞い上がらせたまではよかったが、今度は松本城近く北方へ見当違い。
▼そうして翌日、わが家に出戻り。こんなときはどうすればよいか、西山さんに聞きたくなった。