九月

▼数少ない私の蔵書票のなかの前川千帆版画「雲雀」は二度摺り、本誌題字の斎藤昌三主宰「書物展望」に気に入られ、表紙を飾って貰ったことがある。尤も私だけでなく毎号諸氏のリブリスが紹介されていたが。
▼「白と黒」の題簽も表紙版画も棟方志功。版画題名は奇抜で、鷹には(猛禽)、鶴には「列嘴」、獺には(河嘘)。棟と無造作に朱印を押す。発行者は料治熊太、雅号は朝鳴。
▼誌友になって気安さからなのか、手紙が来て「手紬、手織りの、少し薹の経った時代ものが欲しい」と言う。さてこれは困ったぞ、どこから手に入れたものか。少し考えて、回収業のおじさんに頼んで見よう、馴染みだから無理して捜してくれるかも知れぬ。
▼訪ねて来たおじさんにこのことを伝えると、何とか見当をつけて見ようとうなずいてくれた。一週間したら、見つけたよ、これなんだがねと差し出した。成程、たたけば埃の立つほどの古ぼけたものだが、いいかどうか、がっかりさせたら、またと言うこともあると考えて送った。
▼朝鳴さんがとても喜んで、久し振りの逸品に小躍りするばかりと早速便りが来た。御礼にいただいたのが蔵書票「鐘撞堂」。黒一度摺りだが、裏二色の手彩を施した風変わりな作品。雅趣に富む図柄なので愛用とこころに決めた。
▼そんなことがあってから、中国泰山の朱拓をたくさん頒けていただき、いまも居間に書幅として架けてある。友人が欲しいと言われ、いくつも持って行かれ、いまは二枚折り屏風のみとなった。
▼川西英が「週刊朝日」表紙に版画「オーケストラ」を発表、評判がよかったので、当地の丸山太郎と一緒に、一枚ずつ所望したいが、と手紙を出した。
▼物好きな私は大山竹二にお願いして、しばしば川西英の神戸風景の小品版画を送って貰った。神戸港や六甲の極彩色のハガキをいまも大事にしているが。
朝日新聞から画稿料は頂戴しているので、丸山太郎と相談し、昔の馬の腹掛けをどこかで見つけてくれとあり、太郎はこの方面に詳しかったので、すぐ送った。