二月

▼土地のものだけで話し合っているときはそんなに気にもならぬがたまたまよその土地の人が居合わせ、怪訝な顔をされてオヤっと思う田舎まるだしの言葉がある。
▼「おせんしょな口出しで、もうらしいことをしてしまったが、何ともへい遅い後の祭りさ」訛とは違う難解な言い回しに驚くらしいが、おせんしょ、もうらしい、へいであろう。おっせんしょはお節介もうらしいは可哀想、へいは最早の意味。
▼一月号「柳多留二十九篇輪講
 明ケろくを打ッたかが
   豆腐屋解せず
の例証句の
 明ろくじやなどと豆腐屋
   しやれをこき   田舎樽
の(こき)は方言ではあるが、それほど判かり難くない。
▼嘘をこく、屁をこく、ごたこくのように使う。「なにをよこくだ」「馬鹿こきやがる」「朝寝こく」「寝小便こき」とも言う。辞書には(放)の字を当てて、出だす、言い放つとしてある。
▼昭和四年「鯱鉾」誌上で花岡百樹はこの句を挙げ、「こきは矢張り方言で、言ふを罵倒的にいふた事で、今のぬかすと同程度で、語源は、こういったがこいたになってこく、こきの動詞に転じたものと思われる」と解説した。
▼私はこの「古今田舎樽」は昭和十三年に名古屋の藤園堂で手に入れた。知れる限りの古書肆に頼んでおいた念願の句集であった。
▼小寺姓玉晁文庫とある一寸六分円型の蔵印。元の所蔵者で墨押。渡辺守邦・島原秦雄編「蔵書印提要」に拠れば、朱押と墨押があったことを誌している。古本屋で手に取っただけで求めなかったが、小野則秋「日本蔵書印考」に紹介されておったことを思い出す。
森銑三編「人物逸話辞典」を読むうちに、神谷三園の項で小寺玉晁の名に出合った。名古屋の人。文雅・好事の士として往来した。機があって名古屋市教育委員会続刊「明治の名古屋人」に接し、玉晁の全貌を知ることが出来た。
▼上梓した書は一冊もなかったが著述に専念、その筆稿本を「玉晁叢書」と題し、一括三百余種は早稲田大学図書館で購入、他に上野図書館日比谷図書館等がある。