十一月

▼大凡、松本駅の乗り降りは東口が多いが、この頃西口を利用する人も出て来た。北アルプスが眼前にひろがる地帯、いち早く四季のうつろいの彩りを伝えてくれる。このところ高速道路改修で目覚ましい様相転移をつづけつつある。
▼ほど近く長野県松本合同庁舎を初め公共建築物が並ぶが、日本司法博物館を遠くから観にくる。浜田義一郎さんご夫妻がひょっこり「いま行って来たよ」と道すがら寄って下さったこともあったっけ。
▼十月末っ方、玉川学園女子短大の宮尾与男さんは、学生を連れて浮世絵博物館見学をすませ、松本城に回った序に拙宅を訪ねていただいた。お父さんの遺稿をわざわざ持参、いずれ整理したらご厄介になりたいとおっしゃった。そして十月二日から十一月十日まで早稲田大学坪内博士記念演劇博物館に於て、宮尾しげを展を開催され、そのときの目録掲載の館報を貰った。
宮尾しげをさんとは古くからの馴染みで、出世作「団子串助漫遊記」を子供のころで知ってから、昭和九年「小ばなし研究」を手に入れた以来である。そして戦争終結まもなく荒廃いまだたちこめる空気を一掃したい気持ちで似顔画展を企画、これが大変な好評で二日間では描ききれぬ盛況、大いに面目をほどこした。
▼向こうに家点々、河童がゆったり釣をしている扇面図、愛用の横額。洒脱、清心の気ただよう。
   新聞を見ぬ日うれしく
       旅に寝る
 色紙だが、風呂に漬かった閑暇をたのしむ絵を添える。
伊志井寛坊野寿山、西島○丸と一緒で、とても雅趣に富む「ホウズキ」がある。大事にしているが、豆本ものの嚆矢のスタイル。
▼画帖を送って、お仲間の漫画家に一筆を頼んだ。二年越しに待望の揮毫。岡本一平、田中比左良、代田収一、池部釣、服部亮英、池田永一治、清水対角坊、前川千帆細木原青起水島爾保布の面々。
▼しげをさんは信州によく見えたが、必ず松本まで足を延ばしては近況を話された。武藤禎夫さんもそうだが、親しみ深いお方。江戸小咄に通じるお人柄とも思う。