四月

▼間違いはあるまいと思っていたが、さすが人望の高い噂そのまま悠々と県議会議員に当選されたので、早々ご母堂に祝意を表したら、お蔭でまた四年間県政のため尽くすことになり、大方のお声援を頼むとお電話があった。
▼句会吟は毎月投稿しているが、ご子息の栄誉にあやかって、老成いよいよ増して健吟することだろう。ご家族一同で祝盃を挙げられている様子を目に浮かべた。
▼嬉しいにつけ悲しいにつけ、酒はつきもの、めぐり来る人生のくさぐさに兎角かかわり合いが絶えない。佳いことだけに美酒となって、談笑のふくよかさに包まれたことだろう。
▼私もその夜、いつもとは違った気分でじっくり酒をいただいた。ほんのりとよい気分になり、ひとりして我意を得たひとときをたのしむ。
▼頃合いに適当の量をくり返して怠らない。止まり木は好きでないので、殆んど家での晩酌で間に合わせて久しい。せいぜい一合燗びんで満足する。あとは所望しない。上野景福の「アメリカ小話集」のなかに、禁酒論者が公会堂を借りて講演会を開いて禁酒を説こうとする場面がある。「さて、皆さんここに一樽の水と一樽のビールがある。そこへロバを連れてきたとすると、ロバはどちらの樽から飲むでしょう」「水の樽です」と遠くから声がかかった。「どうしてか」論者は調子に乗って次の答えを待ちかまえ、「水の方を飲むんでしょうか」すると今度は別の声がかかった。「ロバだからだ」
▼人間はそうしないからさと言わんばかりである。さんざん酒に醜体と慚愧を強いられて禁酒を思い立った人が、禁酒の弁という挨拶状を印刷してその心意気を示されたまではよかったが、数日してベロンベロンに酔い、誓いを破ってしまったとか。自分の健康を思った揚句、金輪際やめた人もいある。
▼「聞きやれ。おれもこのごろきん酒した」「よくあるやつ。久しいものだ。きん酒のきんの字は近いといふ字か」「イヤ近いは古いによって、勤めるのだ」江戸小咄(出頬題)。私も永年勤続だが、それは名ばかりで、その中味を恥ずかしがるうちが花かもしれぬ。