二月

静岡県はすぐ隣でも気候がずっと違う。冬いちごと聞くだけで羨しい。静岡ちゃっきり節に
    蛙がなくんで雨ずらよ
がある。蛙が鳴くから雨降りになるだろうと予測しているが、この(ずら)はそうだろうの方言で信州でもよく使う。世にいうずら言葉だ。この語は室町の史記桃源抄、信陵君列伝に「信陵君やなんとは北面にしてこうずら」と古く見えているという。
▼「おらへえ駄目だ」「オヤお前へえ行くのか」の「へえ」は最早、既に。何となくよく吐く。方言の入った川柳を作ろうではないかと句会で即吟して貰った。
   いちゃついてへえ
     忘れてく弁当箱 きよし
 いちゃつくはあわてるで、男女がデレデレふざけるとは異る。女房がいちゃついて出掛けたよ、変に勘ぐってはいけない。
▼「はあるか振りで会ったよね」「あの子がもうらしくて仕方がない」「げえもねえことして」「ぞぜえてけつかる」「おひゃらかしちゃあやだんね」「でっかいがんまくのうちだよ」「じょけて困った」「行きましょね」「それでも俺は行かずわ」
▼最後のひとつだけ解釈すると、「行かずわ」――行くとしょう。未来、推量、意向を現す。語源は古いようだ。
▼「古今田舎樽」は文化年間、松本出版の川柳句集。
   づくなしに重石をかける
      雨がふる
▼ずくなし、いくじなし、怠け者ぶしょう者、だらしない者、不器用な者と東条操「全国方言辞典」にある。「ほんとうにこずくがあるね」とも用いる。こずくがあるは、細かいことに精が出るに言う。
物臭太郎御伽草子「おだがの本地物臭太郎」に出てくる。松本市新村には遺跡地の碑が立つ。伝説として近くに由緒の名残りが多い。横山重物臭太郎と私」で、徴証として第一にナマケモノ、第二にかなり不羈を当てている。
   物ぐさ太郎へ母灸すゑる
        柳多留一七
物臭太郎現代版は星新一物臭太郎」のショートショートを読むがいい。志向操縦術がきびきび響く。僥倖の奈辺を探る思いがある。