二月

▼今朝は少し寒いなと感じながらテクテク歩く。この時間にいつも出会うひとがある。どこの人ともわからないが、ちょっとした会釈を交すと、向こうでも心得たもので、軽く頭を下げ知己を示す。
▼それは殆んど男、あっさりした気持ちで通じ合う。ところがこれが女だと、どうも心安く挨拶しようと思わない。さっと顔をそむけて、いつも会うのに無視した格好で行き過ぎる。かかわりになることを警戒しているみたい。こちらもそれがわかって、すんなりした気持ち。
▼広場に来ると日本アルプスが見える。西の方、連山が雪に掩われて壮大だ。白皚々、威容をくずさず迫ってくるばかりだ。道標に海抜五百九十米とあって、この地の高さをたしかめる。
▼堀のなかに氷を避けた氷面を鴨がうずくまり、身動きすこし。ここが一番安心する場所と知って、じっと休らいをたのしむ。時間になるとどこかへ飛び立つ。そういう時にめぐり合わぬので、私は見たことはない。
▼中学校に行くもの、小学校に行くもの、高校へ行くもの、それぞれ登校時刻がずれている。朝食もそれに従って違う。南面に大きく張ったガラス戸、日中、陽光が隈なく入る。隣の銀行の建築物が少し低くさえぎるものがない。
▼南国の友人が便りを寄こして、松本は日本で三番目に寒いところと聞いているとあった。信州では軽井沢が最も寒く、次に松本、諏訪。その癖、積雪が少ない。東京から来た知人が、自宅へ電話したら東京ではいま雪が降っているとのこと、こちらはカラリと晴れているので驚いた様子。
▼朝のテレビを観ながら、電気カミソリ器を使う。少しやかましいので、はたのものに迷惑と気がつき、中途でやめる。無精髭をとがめられ、老いの美しさでもあるまいが、まわりのものが注意する。
▼まるっきり禿げてはいない。でも退却の部類に属する。たまに床屋に出掛けるが、主に家内から目ざわりにならぬ程度にハサミで刈って貰う。落ちてくる毛は白いものがまじる。そんなとき佗びしさがほんのり。黙ってうなずく。後で鏡に写してまで今更見直さない。