八月

▼市民菜園のくじを引いたら、ひとつ余分になったから分けてもよいという。殊勝な人があるものでその余沢にあずかった。伜や孫たちが整地して、いくばくかの種を蒔いた。
▼素人だが、何かが出てくることを期待して、せっせと手入れに通った甲斐があって、トウモロコシキウリ、トマト、ナスに混って西瓜が穫れた。とても小さく、家族たちの口に入る分量はおぼつかなかったけれど、庖丁の手さばきをみんなして眺めていた。
▼塾さないかと中味のほどが心もとなくやきもきしたが、なかなかどうして真紅な色であらわれた。一瞬どよめきが起きると一しょに感嘆の声があがった。
▼ほんのひと切れずつを頬張った顔と顔。雫する冷たさに満足げな目が合う。
 よそで食うスイカの皮に
     色残し  池田毅
 私たちのこの場合、色は残さず平げた。
 掃溜へ召つれられる西瓜売
         柳多留五〇
 とんでもない、真っ赤なほんとうだった。
▼あんどんに西瓜の色よき容姿を描いた夜店売りがなつかしい。
 赤とんぼホースの水に
   とまりかけ  食満南北
 この句の画賛は西瓜、種がひいふう、みい
▼果肉は淡紅、赤、クリームだが表皮は真っ黒に品種改良したものが生産されたと新聞に出ていた。旭川市近郊の上川郡当麻町で人気を集めているという。
▼大きさや形は違わないが、果肉の赤色が濃く、歯ざわりがさくさくして、かなり甘いとか。
▼鶏の絵に巧妙な筆をふるった伊藤若冲は、生まれが京都錦小路の青物問屋「枡源」の長男だったからか、野菜にも堪能の筆の跡をたどっている。
▼野菜涅槃図は、真ん中に大根を据えて釈迦の入寂を示し、その回りを取り巻くキウリ、ナタマメ、カブラ、南瓜などが菩薩羅漢の姿に見たてられる。西瓜もさがせばあるかも知れない。身近な野菜を水墨画にゆだねる。
▼また穫れたら西瓜を抱き、めぐりくる思いを暑熱の日の中におく。