八月

▽あちらの広場、こちらの空気で盆踊りが行われる。村は勿論のこと、町でも、市でも主催になって拡声器で賑やかだ。お城盆踊り大会のポスターが各戸に回り、八月十二日から十七日の午後七時三十分―九時三十分大勢集まり、浴衣掛けや登山者の飛び入りもあって人気を読んでいる。
松本城通りの愛称を持つ私の住んでいるところは、繁華街よりややそれた位置だが、このお城盆踊り大会のときには人通りが多く、そのうえ喧騒を帯びてくる。あんなにせずとも踊れるものをと思うほど、レコード使用拡声器のボリュームが高い。もう少し小さくならないものかとも思う。
▽八月のこのあたりに前川千帆の盆踊りの図を床前に掛ける。頬冠りのいでたちのおっさんが団扇を持っての身のこなし。お月さまがまんまるい。
▽昭和二十三年八月号の本誌の口絵には、安曇節の歌詞と人物を探り入れた版画で飾っても下さった。アルピニストには馴染みの民謡。
  安曇踊りと三日月さまは
  次第【くりかえし】に丸くなる
  チョコサイコラコイ
▽本誌題字、斎藤昌三の書物展望の表紙は、愛書家の蔵印と蔵書票の紹介に努めたが、昭和十三年三月号に千帆の民郎蔵「雲雀」の図を採り上げて下さった。いまご活躍の関野準一郎さんが青森にいた頃創っていただいたエッチング「富士と船」の図と共に、私の若き日をたしかめるにふさわしい。
▽「団子串助漫遊記」は少年時代忘れられぬマンガ本。奇想天外の筋の運びかたが子供ごころをくすぐった。宮尾しげをの名をしかと覚える。のち「小ばなし研究」を購読することで知り合い、長く交際をつづけたことになる。
▽画帖をあずけること数年、揮毫を依頼して急がず、気を長くして待った甲斐あり、先ず岡本一平を始め、田中比佐良、細木原青起、清木対角坊、代田収一、池部釣、水島爾保布、服部亮英、池田永一路、なかに千帆は戸隠山を画いている。画帖を快くお引受け下さったしげを画くは馬の温泉。
▽いま「宮尾しげをの本」復刻版を手にし、千帆の「偲糖帖」「はんがらふ」に、故人を憶うや切。