一月

▽昨冬、手づくり郵便はがき展をやるから、何か変わったものがあったらと松本郵便局から出品をすすめられた。自慢に提示することは避けているが、ひとりだけ娯んでいるより、貧しいコレクトだが、丹精を凝めた人たちの作品を広く見ていただけたら、ご本人も納得してくれるだろうと思って承諾した。
▽これはと合点のゆくものをつぎつぎ蒐集出来、また昭和の初めの頃はそういう好尚を持てる年柄だった。お正月は久闊を叙す交換だけのはがきでなくて、何か工夫した、いまでいう手づくりの愛玩を尽くす珠玉を志したように思う。
▽局担当者は幾十年ものブックから無造作に引き抜いて、それをまた差出人の年別に分類し、閲覧の便に供するつもりだった。数えたら百余通で、丁寧に袋に包んで持って行った。
▽十日ほどしたらお返しに来た。ごっちゃになっているので、これをブックに挿し込むのが大変で、ついつい束にしてそのままにするより外はなかった。
▽年が明けてから思い切って、年代順に元通りの個所に入れてゆくわけだが、その分類に手間がかかり、昭和幾年でなく干支を記した年賀状があるので、年代はいく年なのかを調べるに骨を折った。
▽ブックの表紙裏に前川千帆さん版画の「雲雀」が貼ってある。蔵書票である。嘗て斎藤昌三さんの「書物展望」表紙に紹介されたもの。一銭五厘を貼った昭和十年の年賀状で坊野寿山さん。木版画。亥が鼻に花瓶を乗せて水芸をしている図。東京市日本橋区浜町二ノ六 ささどころ 松花とある。花柳吟調の寿山さんだ。
▽やはり十年、大阪市天王寺区上本町十丁目三八に移転したという付記のある岸本水府さん、自分で書いた絵と書をオフセット刷。正月はみななつかしい人ばかり。
▽逸材、石森静太さんのハガキ、与三郎、節子両氏の結婚祝賀句会に出かけたら、緑雨、汀柳、豆萩さんが見え「民郎さまのお祝ひのお信りを席上にて読まれました」とある。佐藤米次郎さん第十三回国画会入選(盛岡近郊)絵ハガキも昭和十年か。