十月

▽先日、テレビを見ていたら、東京のど真ん中で、案山子のコンクールをやっているのが出て来た。思い思いに考案された案山子が、まるっきり農村風に、また現代風俗を探り入れたもので人の目を引く。案山子の群像とは逆に、稲をついばむ鳩たちで、いかにも都会風俗をきめていた。
▽神戸の三宮センター街には「山田の案山子」という串かつ専門店があると聞いたが、やはり店の入口には、ミノ、カサがお相伴に飾られているのだろうか。
▽私は若いとき手紙を出して友好をはかったけれど、遠く佐渡に住む青柳秀雄という郷土研究家と知り合い、ズッシリと並んだ書棚を背にした写真を銅版にし印刷してあげたことがあった。佐渡研究の請説をいくつか発表されたのでそれも印刷したが、当地の松崎紙という和紙で、素朴な膚ざわりの装丁が気に入ってくれた。
▽好奇心が強く、蒐集家の名簿に載ったお蔭で、知らぬ土地の人と手紙をやり合った。神戸の川島(お名前を忘れてしまった)さんに頼まれ、やはりこの松崎紙で「楠公百絶」だったか、そんな書名で楠公に関する漢詩をあつめたものを印刷してあげた。色リボンで小綺麗に綴じた。
▽そんな頃だったか、神戸の川西英さんの版画の甲子園連作に魅入られた。一度摺り、簡潔直截よく空間を生かした黒から流れるシンフオニー。
▽私は彫刻刀があるくせに、ぶきっちょでとても版画を創作なんて柄でなく、専ら鑑賞することだけに過ぎないが、いくたりかの版画家と知った。
▽「週刊朝日」の表紙に英さんのオーケストラが発表され、この作品をほしいと思い、丸山太郎さんと相談して二枚頒けて貰うために乞うたら早速お送り下さった。
▽神戸風景のごく小さい版画も手がけられ、市販として評判がよかったから、大山竹二さんからしばしは労をとっていただいた。竹二さんと随分文通したが、戦後京都の大会で逢ったのが最初で最後だった。奥さんにいたわられながらご出席され、それが目に浮かぶ。
▽短冊をお願いしたら快く揮毫してくれた。書は丁寧で、
 うれしいが女は風の夜に疲れ