七月

▽先方では承知だが、こちらは誰だか見当がつかない電話の声で、久し振りをなつかしむ面持ちが先ず伝わってきた。五月のある日の夕方。会いたいというから、こちらから出向こうかと聞くと、夕飯のすんだあとでお伺いしよう、東京の高木能州さんだった。
▽バスで十五分くらい、山辺温泉旅宿から打ち合わせ通り、私の家のすぐ前のバス停で迎えた。ずっと前にやはり私の家で初対面したことがよみがえった。
職掌柄、劇界の話や、劇の資料を蒐集しているようだった。私も少しはあるので戯曲の書物をお見せしたが、既に所見のものと思われ、専ら柳界の現状に話がつながれた。うちの自動車で宿まで見送ったが、車中でも名残り惜しいお互いを感じとった。
▽六月になったら、突然、東野大八ご夫妻が訪ねて来られ、意気軒昂といったあの大人振りを見せて、愉快な対面となった。しきりにコーヒーを欲しがるので、近所のコーヒー店に赴き、共々スプーンを持ちあつかいながら、奥さんを交え談笑した。
▽これまた近い松本城に登る。近いところにいて、こんなときでないと機会がないから、ついつい一番上まで登った。終始、言葉が飛びこんで来て良識がひらめく。共通切符の城域にある日本民俗資料館を観る。歴史展観ということだから、これまた賑やかとなり、われ知らず声を掛け合う。
▽町内にそば屋があるから、旅のすさびに箸持てすする有閑のよさ共に味わう。
▽疲れたとお見受けし、奥さんに少し横になっていただく。すやすや眠るほどでもなく、しばしの憩いが気に入ったのだろう。時間を見て再会を約す。すごく爽やかな別れだった。
▽七月句会にお邪魔するお電話があって、脇屋川柳さんが見えた。西巣鴨の姉の家に来てくれたときにお会いしたので面識はある。
  余白あり銀の写楽
    逢いにゆく
の句の通りの人柄を、句会席上のご挨拶にも席題選にも見せて下さった。翌日の松本市老人クラブ川柳会にも寸話を献げ、天寿への励ましの言葉でしみじみさせた。