三月

▽「日本の原爆文学」全十数巻(ほるぷ出版)の企画が進んでいて、詩、短歌、俳句が入っており川柳部門があわや見落とされようとしたのを食いとめた経緯が「森林」第三十一号に出ている。
▽K氏が紹介した山村祐さんによって資料が提供され、第一部は昭和三十一年八月六日、森脇幽香里女史らの手で広島川柳社から発行された句集「きのこ雲」から。第二部は昨年春以後の、主として「路」「川柳人」誌などからそれぞれ数十句を選ぶ。
▽ともすれば川柳界だけで取沙汰されるに過ぎないものを、外に向けて川柳を押し上げるよい機会を得たことになる。また社会詩として目覚めた視野を認識して貰うことにもなる。
▽句集「きのこ雲」は前年三十年夏に「川柳ひろしま」八月号と合本で出版、非常な反響を呼んだ。そして若干増補し活版刷で装を新たにして翌年発行した。三十年版はガリ版、稚拙なだけに何か生々しい感触を、その当時印象づけられた。内容も被爆体験が綴られ深く感動を覚えた。第一編きのこ雲、第二編ケロイドの声、第三編神の怒りに分かれ、この第三編冒頭に私の十句がある。
▽三十年版は原水爆禁止世界大会広島準備会会長浜井信三氏、毎日新聞社広島支局長徳井真一氏、川上三太郎の序文、三十一年版は三太郎氏一人となっている。三十年版は菊判、三十一年版は四六判。
▽俳句では句集「広島」が昭和三十年八月六日に発行されている。句集広島刊行会。序文は森戸辰男広島大学学長。日ならずして「天声人語」に採り上げられた。早速スクラップしこの書に添付する。
反核に関して一連の川柳を募集している僚誌は「路」や県内の「美すゞ」。気持ちはあっても応募せずに、自分の創作の域にあって独自に発表している作家もある。
▽杉久美枝さんの川柳句集「花ばさみ」は昭和五十四年六月二十日版。原爆ケロイドに耐えての副題があり、新聞に報道され、また田中千禾夫氏の随筆にもこの人の句に感銘を受けた文がある。作者からいたゞいたお手紙を私は大切にしている。句に
 旅はまだ残る命を惜しまねば