十一月

▽そんなに早い朝の目覚めではないが、朝食を摂る前のひとときを道路掃除に当てている。かさこそと落ち葉の音が季節のうつろいを感じさせ、もう晩秋だなあと思いながら箒の手を休めない。
▽歩道からちょっと下がった路面は車道、片隅のあたりに落ち葉は吹き溜まり、折り重なって少しの風にも軽く動いている。
▽バスやトラックが向こうからやって来るのを見る。歩道に避けて通り過ぎるまで待つ。図体が大きいから通り過ぎるときの追風に落ち葉はサッと騒ぎ、狼狽え、すさまじい動揺で、折角掃いておいた位置をかき乱す。また大きいのが来ないうちに掃き直してやる。
▽アーケードはない。町で歩道を作るときに言い合わせて、アーケードのない方が、この町にふさわしいという意見が多かった。南から北へ約二百米、その突き当たりが松本城。新町名がつけられて、自分のところの町名は知っていても、今以てよその町の新町名を覚えられないでいる。まことにけしからん話だが、つい旧町名を口に出す。新町名の下に括弧して大名町通りとしたり、お城の通りと書いている。
▽お城が近いからアーケードを作らない方が、何となく街らしい風情があるのだろうという思惑からだった。今でもみんなそう思っている。
▽雨が降ったり、雪が舞うと、アーケードはこれを避けるにいい。覆いのない町からアーケードの町に入るとき、傘をさしたままでうっかりしている人がよくある。傘をつぼめた方がいいように考えるが、差し掛けた手前、取り直すことの億劫があるのかも知れない。
▽旅の人が車に乗って来て、私の前に止まる。道を聞くのである。知る限り親切に教えてあげる。とても丁寧に頭を下げてお礼を言う人があったり、旅へ来たら道くらい教えて貰うのに慣れていると見えて、聞いた途端に何も言わずに走り出してゆく車もある。
▽教えてやってよかったなと思いただそれだけのことだが、何となく嬉しい。しれたことなのに何故嬉しいのか、自分で突っ込んで考えないことにしている。私にとって朝はそうした瑣事から始まる。