二月

▽仕事がすんで居間に戻ってくるとき、十姉妹を置いてある部屋をのぞく。もう薄暗くなった時刻を知っていて、彼女らは巣籠のなかに六羽、至極寄り添うかたまりとなって仲がよい。私はお祝儀のお返しにいただいた紅白の風呂敷二枚でそっとかぶせてやる。寒さから防いでやりたいからだ。
▽小学校六年生になる孫娘が、登校する前に介抱するようなもてなしかたで、彼女らを飼育して来たことを私は知っている。初め雌雄のつがいから、四羽が孵ってそれまでの経過をつぶさに見た家族たちは、それこそ珠玉のようにいたわりの目で守って来たのである。
▽この小さな生活は、私たちの生活のなかに融け込んでくれ、強いることなく睦まじさのみをひたらせてくれた。朝早くからチイチクチイチクと囀る声が、あたりの静かな物音さえ引き緊めていた。
▽とまり木にみんな並んで、ひよいっと首をかしげているのに出会うと、渡来した鳥の一群のうち一羽だけが消えた言いわけに、日本産を補充しておいたところ問いつめられて、あれは通訳ですと釈明する江戸小咄を思い出す。
▽節分の夜、いつものように孫三人で福は内、鬼は外をやろうと誘ったところ、六年生はどうも機嫌がわるく参加を拒絶した。何か面白くないことがあったのだろうとセンサクするまでもなく、あとの二年生の幼画家と四才のオシャマを同伴して、私が節分の音頭をとった。彼等はすすんで鬼の役を引受けてくれた。
▽予て手作りの鬼の面をこしらえ、この行事に奉仕する健気な所存だった。天晴れである。幼画家はこれこそ奇妙、色をほどこさずもとのままの白、いわば白鬼の出現である。異様な中世時代に引き戻さんとする心得。ここらあたりでイザイザと言いたいところ。
▽私が鬼は外と唱えると、二人は豆に打たれる白鬼と赤鬼の様相を演出して、たちまち幽幻の世界にさそいこんでくれた。古稀近き年男の度肝をぬくことしばし、居間に戻ると上の孫娘は水疱瘡ときまっていた。
▽潜伏二週間、姉のを受けて二人はしおらしく粒々の出来た素顔で人間らしくいま微恙にある。