七月

△二段ベッドは孫たちの憩いの場所である。購入したしばらくは物珍しい気味もあって、昼間から上り下りをくりかえし、臥て見たり起きて見たりして遊んだ。すっかり馴れて、いまは姉が上、弟が下で夜だけ使っている。
△私は昼飯がすんだあと仕事が始まる前ほんの短い間昼寝する。学校へ行っている孫たちの空いたベッドにゴロリっと横になる。ひとの寝床にもぐりこむなんて、全く不逞で不粋極まる。小学校二年生の男の方は、さすが男っぽい。私の首より大きい縫いぐるみの何やらすごい人形が枕の横に並び、漫画の人気者マコトチャンの人形も人なつっこい歯をむき出している。
△夜、腹這いながら本を読むことが出来るように、電気スタンドが点くことになっている。ひとりだけで掛けて遊ぶ赤い電話が置かれときどきどこかへ掛けているのだろう。
△すぐ眠れないとき、少し夜を娯しむとき、人形の友達と仲よく枕を共にしながら、メルヘンの世界に遊ぶのだ。そして漫画に出てくるいろんな人気者と一しょに、たのしい夢のなかに融け込んでゆく眠りがいともスムーズだ。
△私がベッドで昼寝をしているのをあらかじめ知って、下の女の四つになる孫が、私のところへ遊びに来る。梯子に登って、上のベッドで横になりたいという。そして私が下にいることを意識しながら、からだごとダトンバトンと音を立てて存在を明かすのである。こちらは迷惑で、昼寝も出来ない。いじめ役の姉と兄がいないいのちの洗濯とばかり、おじいちゃんを大いにからかう。
△オチオチ昼寝も出来ないので、とうとうあきらめ、コッソリほかの部屋にのがれて、ぐっとからだを伸ばしながら、しばしの昼寝に横たわる。
△そして孫のベッドのなかに枕と並ぶいくつかの人形を目に浮かばせ、私の母がいまわの際に、有難いものを抱きたいという願いをふっと思い出し、あのときお守りを胸に抱かせて鎮もらせた。
△お人形とお守り、幼さと老いのへだたり、未来と究極を思いつめて、自分でもハッとする。真夏の昼の目がいつも冴えるのだ。