十二月

△記念番組だったと思うが、ゲームのやりとりがあって、舞踊家だとか組合の役員とか婦人会の幹部が入り乱れて競い合う。他愛のないようでいて、さて不真面目でも本気でもないのもいけないから、ほんとうは冷汗をかきながら出演した。民間放送のテレビで、私は川柳家という立場で頼まれ、ガラにもないと知りつつも、一所懸命だった。
△一組終わるごとに行司めいた役が勝負を決めるので、まるで子供が素直に親のひと声を聞くような気持でかしこまった。行司はもうそのとき長野県知事を辞めて野に下っていた林虎雄氏だった。フィナーレは童謡の曲が出て、一節ずつリレーして唱い継ぐのであったけれど、私の番になると口をもぐもぐするだけで精一杯。
△出演後、ヤレヤレの思いで控え室に入って、お互いご苦労さまを言い合いながら、局の係の人たちも入って気楽な座談にうつったが予ねてから思っていたことで林さんに声を掛けた。
△というのは、同じ党の当時参議院議員外交問題に詳しい羽生三七氏と私が、よく似ていることをたしかめて貰ったが、林さんは「これはよく似ている。だが今日は出てもよかったが、羽生さんと候補争いはしないことだな」
△他人の空似とよく言うが、新聞で見るだけだったが、羽生氏の顔はやせ型な、頭の禿げたあたりはわれながら相似たりの感を深くしていたのだった。
△戸板【坂?】康二氏の書いた「ちょっといい話」のなかに、阿木翁助さんが、亡くなった加藤大介さんと、しばしばまちがえられ「人気俳優に似ているんだから、悪い気持しないでしょう」というと「冗談じゃない。飲みに行った時、釣りをもらいにくい」と、うまくオチがついている。
△時事に欠かせない善玉悪玉の漫画に似顔ははびこるが、この方は視覚で捉える現実性を生かして、さすが情報の面白味を伝えてくれる。岡本一平はその方面で、性格を活写して売ったが、山藤章二氏の「ブラック・アングル」になると、真実性の共感を痛切に訴えてくれて、時代の相似への的確な対比をあぶり出してあまさない。