十月

△「頭掻いた、憎い、ニクイ」と囃し立てる。三人で揃って声を挙げるので賑やかだ。五年女と一年男ははっきりするが、三歳女の方は二人の声を真似るのが精々で、どうもあやしい。
△いなごを畳に這わせて面白がる恰好は、いなごばかりが景物のようでもなくなる。孫たち本人も、結構私たちの対象になってくれ、団欒のひとつの童話をかもす。そこがいい。
△家内がちょっとした旅をしたとき、幾日かの触れ合いでとある家族を識った。郊外に住んでいる人たちで、旅がすんだら遊びに来て下さいとすすめられたらしい。それもいなごがいっぱいいて、ドッカリ腰を下ろすと膝に馴ついてくるなどと、お世辞にもウレシイコトを言うものだから、もともと好きないなご捕り、家内は少し腕前を見せたくなったか。旅が終った翌朝、まだ陽がにぶいうちを汐どきと、勇んで出掛けてゆくのを女桃太郎と見た。
△出が農村で、働いたことがあるし、小さいときから野良で遊んだわけだから、その頃たしなんだいなご捕りの自慢ばなしをよく聞かされたが、なにしろ、わたしにかかると、いなごの方で睨まれた風にちじこまってしまうなんて、粋のいいところを喋るものだから、面白半分でも調子がよかったことはたしかだ。
△昔とった杵柄とはよく言ったもので、それが口癖のなかで踊ってるみたいだから、少しオーバーにしても愛嬌がある。聞きいいものだとついうなずいていると、なるほどその収穫のウヨウヨ動く袋を提げて来て、みんなを喜ばせた。
△今度もその袋を見せた。孫たちは相撲を取らせようと言い出し、紙にマジックインキで円を画き、中央あたりに二の字をつけ足した。あたり即製の土俵ときまった。
△姉と弟、弟と妹、妹と姉の番組にヤンヤの拍手が鳴る。ピョンとはねて土俵を割ると負けたことになり、こちらの思うようにならぬのがよかった。
△こんがり炒られたいなごが甘っしょっぱく味付けされて、まるごと孫たちも頬張っている。翌朝のことである。どれが勝ったとも、どれが負けたとも言わないで。