五月

松本駅改築にともなって、周辺の商店街も建築ブームがつづいている。今秋、やまびこ国体を目指しての意気がみなぎる。わがしなの川柳社の句会場の市田屋はこのほど落成を見て、新装成った雰囲気もこまやかに、五月句会を二十日夜行った。
△みんな晴れ晴れしい顔つきで、宿題「人柄」「泣く」席題「緑」「駅前」にいどんだ。ここはほんとうに駅前だし、ふんわりと夜風がさわやかな緑の季節にやさしい膚ざわりを覚えさせる。
△「泣く」は、すしのわさびで泣くのは卒業したと見え、一句もなかったし、「人柄」では
  人柄をくばり 天子さま
     そっと行く    汗青
が生まれた。
△翌日は日曜日で、午前十時からわれわれくらいの年輩だけの句会が開かれる。初心者が多く、まだ一年にならないが、選句というよりも、それぞれの境涯にいての作品という方が好ましい。指導するかたちで句を皆発表している。
△年柄が年柄だけに、「長生き」「敬老」「入歯」という題に取り組みがちである。それがしっくり句会の雰囲気をなごませてくれ、現在のあり方、いまを律する心のかまえがにじみ出る。
  長寿とは 嫁に苦労を
   たんとかけ    幸泉
 若くして主人を逝くし、子女を育て上げた未亡人の句。たしかな溜息でありつぶやきかも知れない。
  僕の歯は なぜに取れぬと
   孫いじれ     白楊
 こんな余裕のあるユーモアも蓄えている爺ちゃんも仲間だ。
△六月句会には「父の日」に当るし、「核家族」の人もある連中から、批判を聞きたいとたのしみである。
△二十日、二十一日の次ぎの日、ある職場グループの選者として行く。すでに二年半が過ぎた。日夜きつい職掌に就いている人たちだけに、時間的な制約があって、顔触れが違い、人員も増減が目立つ。でも出席者はいつも真剣だ。
  居心地が 良いのか 呼びに
   行ったきり    民子
 披露のとき、少しまごつかないで、いい声をしてくれる。この会の閨秀作家で光っている。