一月

△家中こぞって初詣でに出掛けようとしたら、年賀状がどっと来たので、孫たちは自分宛のものを選り出したいといって、少し時間がかかった。出がけのしょぱなを挫かれる恰好だが、お正月早々騒ぎ立てもならず、少し時間を貸してやった。
△毎年そうだが、お詣りしてから小高い丘に登って日本アルプスを仰ぐことにしている。夜来の雨も霄れて爽快だったし、孫たちは私たちより先に駆け出し、蒼空に向かって叫んでいた。
△少しおちついてから年賀状を手にとり、お互いご無沙汰しているのや、平素ご厄介になっている方のご丁寧な挨拶を眺め入った。中には達筆で書いて下さった賀詞だけで、お名前のないのがあった。これはどうしたことだろう。私宛だけなのだろうか、まさかいくつも出したものもこうだったのか、そう思って、そちらさまは私に出したが返事をくれぬのを叱られているみたいになった困った。
△お名前だけで居所のないのもあって、一々住所録で調べてさがした。いそがしいときに住所までに手が廻らなかったのだろう。いただくだけでも有難かった。
△用済みの年賀はがきの利用法という「ちょっとした知恵」欄が記事になっていた。長細く二ツに折って塔を立てたり、飛行機をとばしたりの子供相手の考えだった。ドビン敷にするものもった。私のもどこかでそうなっているのかと思い、少しさびしくなった。でも用に立っている事であきらめた。
△ずっと前のことだが、元旦早々電話がかかって来、暮れに年賀状を君のところで印刷したが、一枚足りないのはどうしたことかと突っ込まれた。そんなことはありませんといっても、くどく、きつく問いつめてくる。仕事始めに印刷しましょうと詫びると、けしからん待っていられない、すぐ印刷してくれと無理をいう。

これにすっかり懲りて、その次の年から枚数をその場で確認して納めて貰った。こちらに落度はないが、元旦早々の初笑いならぬ初怒鳴られが、のちになると思い出の初笑いの種になっている。兎角苦笑いの多い日をつづけがちな此頃、元旦くらいは初笑いがいい。