七月

△長野県では北の方が川柳大会を開催する企画が多い。陣容が整っているせいもあるが、それだけ熱心ということになる。松本は位置として真ん中にあって、集まるのに好都合だから、開催してもいいわけなのに、どうも億劫がさきで機会が少ない。そこで率先、多く出席し、せめて顔をつなげに出向くことに精を出している。
△都合を聞いて仲間と一しょに汽車に乗る。朝発ちだから、まず立っているというのはすくない。婦人会らしい一団が楽しそうに話し合っている。いいおばさん同志で仲よく何かやりとりしながら、口をもぐもぐさせる。
△すぐ横に女の人たちだが、こちらはみんな若い。はちきれそうな娘さんたちばかり。澄まして友達風な話を交わしている。
△まもなく終着に近い二つ前の駅から、どやどやと乗ったのは子供たちで、身障者とすぐわかる。列車が走り出すと、ひとりでは立っていられない。婦人会の人たちがすぐ立ち上って、身障者に席を譲り始めた。横の娘さんは見ない振りして殊更喋り出している風である。まだ席につかない身障者があるので、私たちは引率者に訊いた。「お困りでしょう」エエとは言わないが、もし出来たらという様子なので、私たちは立ちあがって、席をゆずることにした。
△そして娘さんたちの方には向かないで、刺戟するつもりは更々ないのだったから、何の思惑のない振りで、窓に走る風景を見ていたのである。
△駅に着いたとき、子供たちは明かるい顔をして、かばい合いながら降りて行くとき、会釈をした。何だかおもはずかしい気持で、老人の齢になった自分をなだめていたのだった。
△そういうことにひっかかっていたわけではないのだが、この日の川柳大会では妙に句が抜けなかったのがおかしかった。つとめて冷静なおももちを保っているだけでは句は光って来ないのだと思った。いやにこだわってあれこれ突っこんでゆけばゆくほど、迷っている自分がせつなくなる。
△家に帰って、そんな話をしたが家内だけが笑顔を見せ、伜夫婦はそんなでもない顔をした。