六月

▽日曜日になると新聞の柳壇の選句を午前中にすませることにしている。すらすらと書けるときがあるが、どうも筆が進まないで思うようにならぬ時もある。しばらく落着いた気分になってから、机に向う。筆も運んでくる。
▽封をして速達だ。自転車に乗ったり、テクテク歩いて局へ行く。歩いて行くことを知っていて、孫が従いて行くことをせがむ。どうも時間が掛かりそうだぞ、そう考えて孫の手を引く。ところが手を引くどころか、もぎとるように、ひとりで行動を示そうとするのである。
▽立看板の裏側に隠れて、こちらへ行ってパー、あちらへ行ってパーを繰り返す。こちらも合槌を打つようにそれを繰り返してやる。わが意を得たりとばかり、にこにこと微笑をかえされると、つい躍ってしまう。
▽それがすんだら、今度は歩道からはみ出さないように気を配りながら、走ってゆくのを引き止めたり、歩くのをいやがる足取りを押してやったりするのである。素頓狂に声を挙げてのっしのっしと思うままに幼い行動をとってゆく。
▽局に入ると、速達便を自分の手で持って局員に渡さないと気がすまないらしく、せがんで駄々を言いたがる。抱き上げて速達便が局員に手渡されてゆく順序になるのである。
▽家へ戻る道すがら、神社の境内に入ってゆく。鳩がしきりに舞い上がり、餌をやるとすうっと降りてくる。一袋二十円の慈善鍋みたいな無人販売器があって、孫は二十円を所望し、十円を二枚、うまく入る寄金箱の溝に入れると、当然のように豆の入った袋を引き出す。ゴムバンドでくくった袋の口をもどかしそうに開けると、一粒一粒、私の手から孫の手に乗せ、それがまた一粒一粒、鳩の群に投げられる。
▽なにか鳩の歌を口でくちづさむ風にして、その横顔はいじらしいのである。まわりに同じ年頃のボーイフレンドを見やりながら、しきりに一粒一粒の豆が惜しがられ時間がきざまれてゆくのである。青空いっぱい、鳩はこのおじいちゃんと孫の結びつけを意味するようにちょこちょこと寄ってくる