二月

▽百人以上となると困るが、毎月の句会は私の家で開いてゆける。集る者は顔馴染みで、時間にキチンと来るのと、遅れるのとあるがいつの間にか作句の醍醐味にひたれるような雰囲気になつている。親しさということもあつて、たまに欠席でっもすると心配する。いま電話があつたと聞かされて、丁寧だなあと感心し、不参の理由をとやかく突つこまない。
▽すぐ入り口にわが愛犬のねぐらがある。吠えることが与えられた権利のつもりで、ときにいやがられるけれど、いつもの川柳の同好者さま、ご精が出ますねと、巣のなかでうずくまり、知らん顔して無精者らしく挨拶したつもりでいることもある。おや、どうしたのかねといぶかる仲間が、安心して巣をのぞきこむと、いきなり一喝の示威となつて度胆を抜かれるのである。
▽そんなに大きいねぐらではないし、犬好きな私だつていかな一緒に寝てやれるわけのものでもないけれど、中国の「笑海叢珠」には素晴らしい犬小屋のことが出ていてうらやましかつた。話はこうである。ある寺に大きくて立派な犬がいて、これをぬすもうとした。和尚はそつと犬小屋にもぐりこんで、泥棒の来るのをひそかに待ち伏せた。泥棒はまさしくやつて来た。和尚のやかん頭を手さぐりで撫でていたが、矢早に外へ逃げ出した。「あの犬には驚いた。きんたまでさえこんなに大きいんだから、どのくらいの大きさか、よくわかるつてえもんだ。なにしろこちとらの手におえるしろものじやねえ」
▽エバーソフトというわけにはゆかず、せめて着古しのそれらしいものを放り込んでやる。しきりに嗅いで、御入来の蒲団をわが鼻でたしかめ、ぐるりつと回つてから臥て見る。うれしいのである。ご主人さま、お気がつきますね、そういわんばかりに横目でちらりと満足気に見上げるのである。
▽春もやがてという時節に狂つたような雪が突然の訪問となつた朝いくらか巣の屋根にちらちらいまも降りかかるとき、目覚めはやき寝顔を私にそつと呉れて、とても裸のままではよい雪の句は出来そうもないといいたいのである。