一月

▽わが愛犬は人間並みである。人間でも四つ子を生む世のなかなのに、犬ともあろうものがたつた一匹産んだ。彼女はけろりとした顔で、小屋のなかからわが子をねぶりながら私を見た。どんなもんだいといわぬばかりである。
▽いつ仕込まれたのか、お腹もさほど大きくなく、目立つ様子がうかがわれなかつたので、夜明けがた彼女の声でない小さな声が聞こえて来たとき、おかしいぞ、さては妊娠中だつたのかとおそまきながら気がついた。
▽だん〱大きくなつてゆくと、たつた一匹でもどこかへ行つて貰わねばならぬことに、いつもながら頭を悩ます。親の方が大分くたびれたから、かわりばんこになつて姨捨山に登らせたらと、誰でも思う。しかしいまさら可哀そうだという気持がさきに立つてしまうのはどういうのだろう。
▽毛並みが少しやわらかく、それだけに膚ざわりがふか〲する。人なつつこく、片つぽの脚でじやれついたりしてほんとに可愛い。親は知らん顔して日向ぼつこをしているが、食事のときになるとうるさい。
▽大きい器が親、小さい器が子ときめて、分量よくわけてやる。よくしたもので、自分の割当ての前でガツ〱しながらも、決していがみ合わない。ひとつの器で両方にあてがうと「わたしの分量を何で横取りするの」親は威嚇し、ウーと唸つて、ときによれば噛みつこうとする。あさましいのは、さてここだけの話でもない筈なのに見せつけられるとあんまりいい図ではない。
▽縁があつて子は貰われていつたが、器量がわるかつたら返しに来るという前ぶれだつた。しかし帰つて来ないところを見ると気に入られたらしい。親はそこで、またどんなもんだいと言いたいところだろう。
犬猿もただならぬ仲などというが、猿はまだ飼つたことはない。手に乗るほどに小さい愛玩用に馴れついていたのだが、冬になつたらちぢこまつて死んだよう。そこでインスタントラーメンの手を考えて、ジユーと熱い湯をこぼしたらさつと生き返つたという話を、桂枝太郎さんに聞かされた。