六月

▽物情騒然たるなかで私たちはそれぞれの信念と思惑を持ちながらその一日を処することに汲々とせざるを得なかつた。安定したほんとうの心のやすらぎのない日がつゞいて憂鬱であつた。
▽デモのあけくれ、赤旗の林立、署名運動、大学教授と文化人の声明、新安保反対の叫びという抵抗に私たちは組すべきか、それとも拒むべきかの立場にもまれていかねばならなかつた。
▽そうした現実のはげしさ、きびしさをこんなに痛切に感ずることはあまりにみじめであつた。殊にひとりの平和を守ろうとする私にとつて、押し寄せる時の流れの激しさは目もあてられなかつた。
▽新聞やテレビの第三者的な批判の発表も、文字通り画面通り受け取つてもよいものやらという疑いをさしはさむこともなかつたわけではなかつた。たとえばおちついた浴衣がけの庶民の夕涼みを許せるような一日がないことはたしかであつた。これでいゝのかということも考えねばならなかつた。
イデオロギーとあくの強さは私には堪えられなかつた。どちらつかずの中ぶらりんの気持ちがこゝまで来れば無駄ではないかとも思つたが、まあ待て、日本はそこまでおちぶれはしないぞと、もう少し見守る立場になつてゆく自分をいとしんだ。
▽はつきり右を志す、はつきり左を志す信念もいゝものである。主張と確信のあふれる強い肌合いは抜くべからざるものがあるのである。にも拘わらず右とも左とも言わず傍観的な日和見的な考えの物足らなさを突かれることもあり得るだろうが、ことをかまえず敢えて話し合いの焦点をのぞむゆとりが恵まれぬものか、まだそこまで熟さないのだ、それには時をかすまで気長に待つより仕方がないのだとも思つた。気弱さのしからしむるところか。
▽短兵急を好まず、そうかといつてじわじわと権謀術策を弄することは嫌う気持で、何とかよい明るい世情をもちたいものだと思つている。
▽時事を詠う私の川柳はあくまで自己の批判にしみついて出来る小さな心の歴史である。