九月

▽時間間際になつてザアーと夕立が降つたり、ぼそ〱と秋雨がやつて来たりすると、今夜の句会の出足はどうだろうとうらめしいように雨空を眺めることがある。それがかえつて杞憂になつて、意外に出席者の顔が見え、雨にも負けぬ精進振りがお互いの胸のなかに流れていつたりして句会というものの味わいが濃くなるのである。
▽句会に出掛けようとしたら思わぬ来客に出つ喰わすと当惑するがそんなときは雨が降り出して来た場合と違つてどぎまぎするものである。何とか漕ぎつけて、定刻より遅くなつても、やれ〱、やつと句会に顔を出せるぞ、そう思うと事実ほつとする。
▽性格上、定刻というものに几帳面で、ちよつと前までに腰をおちつけぬとそわ〱する人がある。人より早く行つてゆつくり句作を練るたちである。これがなか〱出来ないものであつて、ゆつくり行かれるのにズルをきめてつい遅れてしまう。
▽遅れると、みんな顔が揃つて句を考えているいゝ環境をくずすからすまないものだが、どうしてもそうならざるを得なかつた理由のあるとしたら、一概にとがめることは出来ないものである。
▽宿題すらまだまとめていずに、席題は尚更その場でデツチ上げなければならないときがある。用ばかり出来てもう一日もう一日と延ばした揚句、とう〱句会日になり、えい句会でやつつけようということになる。場当たり的な句が選に入つて失笑するが、自分の実力はこうなんだと自負に似た昂ぶりを覚える人もあるらしい。
▽早くちやんと出席して、宿題は文字通りこしらえて来て、席題だけに取つ組んでゆく人、宿題も席題も句会のときに手玉にとる人、句会というものはそういうものだと観念して、じつくり考え、じつくり練らないで、当意即妙な奇智だけをねらうことを本能にしている人があるものだ。
▽一番遅く来て一番好かれ待たれる人、早くから来て黙々と句と闘い自分の道を求める人、選に入ることに非常にこだわる人、選に入つても入らないでも淡白な人、いろ〱が交つて句会というものの夢と現実が展開してゆく。