十一月

甲府のころ柿の雨宮八重夫さんから、山梨毎日新聞に君の艶名が出てゐるから参考までに送るとお便りがあつた。堅いことで自他共に許して野暮つたいので兎角煙つたがれてゐる自分が遠い甲州にまでその艶名をほしいままにする報道とは全く意外であつた。とるものもとりあえず広げて見ると「エロか芸術か」の大見出しにまづ驚いてしまつた。チヤタレー裁判松本版と小さいけれど、なかなか利く小見出しが後につづく。
▽ああさてはあの事件が隣の山梨県にまで轟いたのかと、今度は些か大見得を切りたくなつた次第である。といふのは頃日、松本簡易裁判所から突然鑑定人に指名したから出頭せよとの呼出しがあつた。何せ裁判所と税務署の名を聞いた途端にドキリとなる小胆者だから、どんなことが振り掛つたのかと、実は大いに気を廻したわけだ。
▽昨年あたりに摘発されたワイセツ文書頒布事件といふものがあり、検事側で信州大学倫理学専攻の教授から證言を得たが今度は弁護士側から私を鑑定人に申請してその高邁な?識見と豊富な?観察を仰ぐといふことになつたのである。
▽それぞれ六枚続きの「未亡人と青年」「紳士とマダム」「社長と女秘書」「処女の同性愛」「社長とオヒスガール」「暴漢男と人妻」の絵画を撮つた一連が問題作で、これと一しよに週刊朝日表紙の裸体画、内外タイムスの接吻写真集を添へての鑑定であつたが、主観的にまた客観的な視点をも忘れなかつた。