九月

     老い父よ長かれ

   おしめ代へて老いの好日めぐるなり


   かばかりの寝酒の満てる五体あり


   人欲しき部屋にて老いは孤独とも


   遠き記憶かへらぬ舌の短かしや


   呆けて寝よ口開けて寝よ老樹たり


   憎しみを越えたるぞ老いは全し


   臥して手を眺むる歴史ちさきよし


   ひとときは昂ぶりて後の寝顔見よ


   死はさびしやと老いの口言はしむる


   入歯を忘れひとの世は花咲くばかり