六月

     近什

   蝶はおし黙らねばならぬ夕やけ雲


   羽ばたきの音ある蝶の恋のしづく


   蝶の羽の粉の憂ひの散りゆく日


   毒舌をふさぎに蝶は大きい羽


   蝶はわが影のいとしさから狂ひ


   下手くその舞踊の蝶も克たんとし


   蝶の夢彩を重ねて沈みゆく


   羽たゝむ羞恥の蝶の病みはじめ


   蝶が喋つてる陽の匂ひ陽を喰つて


   雲と花のたくらみ蝶の小さき死


   蝶に生れかはつてはつゞけるいのち


   やすらひの自分の墓へ蝶を置く