三月

▽自分の句をこなされてムキになるやうでは、自分の句だけをよしとして人の句をよく見てゐない小心翼々型である。しつかりと心にかまへたものがあればあるまいし、また気にかけるほどのことでもない。また一方、これを素直に受け入れて自分の句の狭い視野に反省と警告を与へてくれたものと有難く考へて謝する気持の人もある。
▽ほめられていゝ気になつてゐたのでは困るが、ほめる人の性格や主張を常日頃知つてをればそれだけにうなづくものがあり天下を取つたやうな尊大ぶつた有頂天型でなしに、やはり励ましといたはりを感じたりして自分の句のゆくすゑに資することは出来さうだ。
▽堀口塊人さんが松本に来たときに、原子雲もろ〱の神の声をひそめ が印象に残つてゐるといつた。石原青龍刀さんはインポテンツ肌の願ひを聞きすごし の非詩性が気に入つたらしかつた。
▽覚えてをられるかどうか、精鋭で聞えた松丘町二さんが 木の肌の片つぽ濡れてゐるこゝろ をほめてくれたことがある。これは私のなつかしい二十代の句で、さういはれてみれば自分ながら捨て難いなあと思ふ。
▽逝くなつた福田山雨楼さんはなか〱手きびしかつたけれど「大阪の別離」といふ前書の 見てあればしきりにそゝぐ灯も雨も に注目してくれた。麻生路郎さんは 想ひ出のひと多くみな月のなか は君の代表作だといつてゐる。どうだらうか。