三月

     近什

     老父微恙の三月

   八十二全きほどに横たはり


   寝て叱咤する老来の気を許し


   老いの手のなほ指揮するやみな負かし


   子を随へ孫を並べて病んでゆく


   かばかりの老いのひがみの夜半の酒


   酒欲しと言ふ老いの瞳と合せゐし


   一升瓶眺め安堵の老いに落ち


   老い呆けの見事にも人集らせ


   感慨のもたつくばかり老いゆく日


   隠嚢の無為もめでたく老いのうち


   しほらしき老いの願ひを聞きとらせ


   早春に老樹の夢をつながせむ