一月

宮尾しげをさんは「お好み江戸小ばなし」といふ本を此頃著はした。江戸時代の笑話本の中から江戸版関西版を入れまぜて抜き出したもの。判りやすく書き直してあるから原文のまゝではない。古川柳と肌合ひが同じい江戸小咄といふものを知りたい方には恰好な本。
▽江戸小咄だけを見ずに、古川柳だけを見ずに、両者合せて鑑賞すると当時の庶民性に興味が湧くし、どちらも持つて居たニユアンスといふものに親近感を覚えてくる。古くさいことだとないがしろにしないで、素直にたまには川柳初期の雰囲気を味はふのもよからう。
▽昭和十六年頃、中央公論社からともだち文庫といふ児童向の本が出たが、そのなかに「わらひばなし」があつた。何といふ人の編著だつたか、たしか挿絵は清水崑とあつた筈。これは江戸小咄を子供風に書き直したもの。私の子供たちのよい読物になつてゐて、随分友達にも見せてあげたものだつた。どうしたわけか見当らぬ。同じともだち文庫のヴイルドラツク作・石川湧作「ライオンのめがね」飛田穂洲「日本の野球」はなつかしく子供たちの手あかにまみれて少し傷んではゐるが今も残つて書架に飾つてあるのに、この「わらひばなし」はなくなつてしまつた。
▽子供のこゝろにしみついてくれた「わらひばなし」―その子供たちも大きくなつた。「お好み江戸小ばなし」を読むには少し早すぎるだらうか。