三月

     近什

   老い父の醉へば仆れて記憶の唄


   八十の確執或る日ひとりぼち


   孫は數へず柿栗の樹を夢に




   死にやすむ母の墓あり此処の風


   母は死に救はれ時を守るなり


   弟の忌に馴れいのちうちふるへ


   生きてゐたらと弟を皆と並べ




   四十四のわびしき声が自分に来る


   たよるべき妻とし流れ行く雲よ


   子は三人たゞしき怒り失はじ