一月

▽馬の顔から羊の顔にうつつたといふだけで、昭和丗年を柔和の象徴ときめこむにはちとあさはかかも知れない。この世の中が、そしてまた身辺がどのやうに演出されるのか、生きてゆくかぎり避けられない。そこに生きの緒のうまみがある。
▽お互ひご機嫌よく新しい年を迎へられ何よりである。潑剌となりはひにいそしむ人、長い間の病牀に耐へて居る人、境遇は違ひ所は違つても拜む初日の出は同じであつたらう。過ぎし日を詑び來る日の安けさを祈るともなく祈るこころ、それはみんな人間だからだ。元日から三日ぐらゐであとはだらだらとなり氣張つていゐた抱負もいつのまにかへなへなとなつてしまふが、でもあのシーンと何となく緊張してくる新春三日の朝の冷氣は得難いものだ。
▽ほんたうに長い間多くの人の作品を選んで來た。私に敢へて寄せる好意といつも享けとつてゐる。ある人の環境、歓喜、苦悩、それが毎月の作品過程ではつきりわかる。この人でなければ生れて來ない句、この人だから匂ひのあふれる句、さうした反映が私の選句眼を越えて響く。或ひは第三者にはわからない作品だけれど、作者と選者だけにはうなづける。作者は落着くのだ。選者は見守つてやるのだ。作者も真剣だが私もこの氣持を失はない。