9:ユーモアの近代味
笑ひと皮肉と穿ちは川柳の内容として定義されますが、近代人の鋭い感覺と思想によつてそれのみにこだはる事なく、しかもそれを含む抱擁性を持つて健康なる奇智と撥剌たる批判に人情を詠ふ俗世間的な民衆詩に傾倒されつゝあります。
氣づかひは嘘も言へない無口なり 汗逭
なか〱辛辣な句でありまして、川柳が人情の機微をつく特色があらはれてをり、嘘も言へないやうな口重い人だから却つて氣づかいであるといふ皮肉でゐてまたそこにユーモアの含む句品となるわけでありませう。
軽口を澄んだ瞳に咎められ 雲峰
澄んだひとの瞳に揶揄された軽口が暗黙のうちに参つた一点描でありまして、そこはちよこなんと皮肉を捉へた作者の冷やかな人間味が出てゐます。
生きてゐた甲斐が佗しく飢ゑてゐる 芳廣
なやんでる今が逭春生きてゐる 石秋
飢ゑることも悩むことも生きてゐればこそです。新しい諧謔だと思ひます。