十月
におとか、 にほとかいう聞き馴れない言葉がある。それを題にした油絵をいま事務室に架けて、気がついた来客には説明している。
遠くに常念岳を望み、安曇平が広がる。刈り取った稲藁が積み重ねられ薄陽ほんのり、晩秋風景。
淡彩をモチーフにしたと思われる図、木村辰彦画伯。
戦後間もなく疎開していた方で一水会所属。しばらく安曇平のとある村に住んでいた。何の縁だったか知り合う。まだ壮年というには早い若い人だった。
東條操編「全国方言辞典」にはわら束を積み重ねた物、稲むらとある。松本市老人クラブ川柳まつもとは、毎月下旬の日曜日を選んで集まって来て、元気であることをたしかめ合うのだ。十月例会で
藁におに隠せる百目柿
熟れる頃 千 五
ちょっと大ぶりな百目柿をにおに隠して頃合いの味を楽しむというのである。
木村辰彦画伯画伯を日置昌一さんに紹介したら、すぐその場で注文に預かり、東京から帰ってからその旨を伝えて画伯に喜ばれた。
日置昌一といえば、ものしり事典でちょっとしたベストセラー。例証の川柳で、拙誌から引用される句があり、どこで拙誌を知ったかとお手紙で尋ねたら上野図書館だということだった。
一度思い切って訪ねたときの思い出を、信大人文学部の非常勤講座で話した。川柳にからめた出会いのいきさつである。
若い学生たちのこれからの暮らしのなかで、多くの出会いのいくつかに恵まれることを願うがあまりだった。
星条旗なびく松島
ほめそびれ 笙人
検閲の手紙心に
来る目方 善弘
戦後、進駐軍のいた頃、警告を受けて返事したことや
水を飲む姿勢のままで
死んでゆき 政見
原爆に遭われた人たちのいくつかを偲んで話した。
終わりに自分の拙い句を小声で学生たちに聞いて貰った。
この道はただひとつ
ただなにげなく
九月廿二日、廿四日で終講。