一月

▼雪はそれほどたくさん降るわけでないが寒気がきびしいので、初めて松本で冬を迎える転任して来た方は少しきついようである。雪が降った翌日あたり、ミシミシと音を立てるごとく凍るから、これまたすさまじい冷気が襲う。
▼根雪でなかなか解けず、歩くにも気をつけないと滑り転ぶ。東西の通りは南からの陽光に遮られ、走ったりすることは出来ない道となる。
▼少しこんもり高いところで、日陰になってそこだけが踏みしめた固さから滑りはいいから、子供たちはスキーや橇を持ち出して戯れる風景となる。声を立てて嬉々と元気がよい。
▼そういうところを画いてくれと頼んだのではなかった。何かが動作している、行動しているそんな景色をとらえてくれれば有り難いとお願いしたら、まさに子供のスキーを画材にした油絵が出来あがった。小林邦さん画くところ。
▼稲藁を立て掛けた前景。そして男の子が五、六人、雪にまみれ、声を挙げながら動作している風。片隅に赤いマントの女の子が、アクセントをつけたコンタクト。家屋が少し見える。
▼真っ白い雪でなく、うすよごれ少しさっと藍が刷かれている。型四号で収まる。額は思いきって白系統。似合い過ぎているのがマッチしたという好み。
▼この部屋にもうひとつ、頭からすっぽり覆った女のひと、裾をからげ艶っぽい。
   声色屋しとしと雪に
    なってくる  鞍馬
▼高下駄にキチンと足が据わった色紙。富士野鞍馬さんは晩年、本誌連載の柳多留輪講に加わった。作句も好くし、画を添えて風趣したたか。
▼紅灯のなまめかしい近辺、いましも雪が降り始めるけはい。遠くざわめきが聞こえるか。闇の中、やがて白きものの舞いしきる。
▼邦さんは少しうすよごれた雪で画き、鞍馬さんはうたのなかで雪に目覚めている。
▼若く二十六歳の弟を喪った私に
  吹雪く夜は汝がおくつきの
    白き見ゆ
の句がある。本誌を創刊して五年目、昭和十七年冬のとある日。