六月

堺市の小谷方明さんから田奈部豆本第六集「粉河団扇」を送って来た。ちょこなんと掌のうえに澄ました顔でご機嫌をうかがう愛らしい本である。七輪の火にサンマを載せて、渋うちわでやんわり風をおこし、脂をこめる匂いと煙が何ともなつかしい。
粉河団扇の歴史を辿り、製法を訪ね、つぶさに解き明かす。語り出すおばさんの顔がまざまざと迫ってくる。そのとき遠くでせせらぎが聞こえ、また山から吹く風がやさしい。
▼かしこまった風情はない。こちらにみんなを向かせ、耳そばだてる愛着の、おのずからなる誘いをうながすのである。
▼小谷さんと丸山太郎さんが父を亡くし、私が弟を逝くした折に、三人で偲ぶぐさを和紙折本装にして知友に頒けた。その名を「みかへりの塔」という。お二人は自作の版画、私は弟の創作版画の「初音笛」を貼った。生前よく木版を愛用していくつも作ったうちのひとつ。あれからもう四十数年が流れ、そして越えてきたいくつもの坂と小川。
▼民俗、民具に詳しく、また蔵書印に造詣深くその著を持つ。先頃小谷城址登り口に番傘ゆかりの人たちの川柳碑が建ち並んだ。どの碑も姿勢を正して、訪れる人を待っているかのように。寛げる散策のよき時を味わいたい。
▼このたびやはり番傘同人の豊中市の石川勝さんから句集「淋しい鬼」を頂戴した。私の句集、「山彦」を持っているとおっしゃる。
▼略年譜からするとご苦労なさった人生の歩みをうかがわせ、作品に反響する身構えを濃くする。一家四人で上高地、乗鞍、高山へ。中の湯で一泊。乗鞍スカイラインハイヤーで飛ばし乗鞍高原国民休暇村で一泊されている。さぞかし親子のたのしい旅だったろう。
▼曽遊の地を思い出された。あれも旅、これも旅、それぞれにつなぐえにしは消えぬ。私の住む近くまでお出でになられたことに触れ、身近な思い出にかられた。
▼酒をたしなむとき、かなぐり捨てたおのれをさらし、果てては思惟をたぎらすのだ。底流する詩情の漂いが澄んで話しかける句々。朝顔がしぼむ納得したように 勝