五月

▼ここから西方に日本アルプスが眺められる。晴れた日にははっきりと雪をいだく常念岳槍ヶ岳ほか連山がずっしりと重い。すぐ近く孫の通学する開智小学校の建物が並んでいる。窓は閉めっきりだから、元気のよい生徒たちの声は聞かれない。勉学にいそしむ机に向かう姿が目に浮かんでくる。
▼ベッドに臥して山もいっしょになって病んでくれてるか同情しているんだ、そんな妄想をかり立てるのだが、山たちは誠に凛々しい。ただ黙って向いていて拒むようにも見える。いや、励ましているに違いない。少し曇っても山は美しい稜線をくっきりさせるかのように温容をたたえる。
▼ミニの携帯ラジオで耳を傾けると、「東京集中をどうする、多極分散は可能か」討論が始まっていた。奥野国土庁長官、鈴木都知事大前研一野口悠紀雄といった面々が、激しいやりとりで論じ、反論を繰り返し熱を加えた。地方分散では熊本の細川護煕や北海道の横路孝弘の、確固たる信念を披瀝し政府に訴えて同調を得、また反駁を弾いていた。
▼それがすんだら「面白自然科学のうち動物」の問答が始まる。動物園で経験の豊かな動物綺談が面白い。パンダの雌雄判断はなかなか難しく、精通の中国の専門家でもたまに早合点があるそうだ。しるしがあまりに小さいからだという。成長前に判断する場合に限るのだが他から聞かれてすぐに返答が出来ぬらしい。
▼動物園に行ったら見るばかりでなく聞くことも観察のなかにとりいれて接すること、変わった発見もあるといい、録音を聞かせて何をしているのか当てる。殆んど見当違いで驚いたが、中でも素晴らしい音を立てた正体がおかしかった。象が気持ちよさそうに体を横たえるとき、腹を押しつぶすその一瞬のおならなのだ。さぞかしとても臭いでしょうねの問いに、ふんわかした薬の匂いですよ。
▼私の入院の介護に当たる妻に話して、一緒に笑い気をまぎらかせた。妻の言うのに蕎麦好きのひとのおならも蕎麦の匂いがするとまぜっかえしてまた笑った。
▼機能が働くまでの間、窓から見える山とのおつき合いの円やかさ。