一月

▽年の暮れの〆切に迫られての忙しい最中に、年賀状を書かないでお正月気分にひたりながら新しい年に入ってから、年賀状をしたためるのがよいという人もある。そういえば、現実早々届かない郵便物の中に年賀状があったりする。
▽歳末ご挨拶を年賀状に代えて差し出すことに決めている人からはきちんと届く。別にことわり書きはしるしてない。
▽どちらがよいかと思案してから年末に出さずに正月に届いた順に書いて送ることにした。少しは落ちつきたい正月気分を、かえって損なうのではないかと感じた。それでやっぱり歳末の余暇をさいて〆切りまでに書く。
▽折角賀詞をいただいたのに差出人のお名前がない。消印を押さぬので差出局もわからず、筆跡を判断しにくいのもあって、とうとう返事が出せず、先方で何故よこさぬ、けしからんと怒っているのだろう。
▽床の間に元日、小室翠雲の松の軸を掛ける。初陽を浴びた犬の仔ふたつ、まろび戯れる図。父が生前、必ずお正月早々に忘れずに掛けて来た行事にならっている。
▽短冊掛けにはため書きの
 凡聖一如元旦の
   こころ知る   路郎
である。
 宝船七人ともまぶしがり
           水府
の軸は別の部屋にする。
▽色紙掛けには
 声音屋しとしと雪に
   なって来る   鞍馬
 画賛。裾をからげた黒帯の女人が駒下駄をつっかけている。
▽新春早々友人から電話があり、
 売り家と唐様で書く三代目
 出典いかにという。前から不明とうろ覚えに聞いていたので、即座に答えられず待って貰った。
▽うちにある索引では見込みがつかず、早速鈴木倉之助さんにお訊きしたら、一時間ほどしてお電話があった。やはり出典不明。ただ明和九年刊、笑話本「鹿の子餅」に出ているという。なるほど、文盲とか唐様の題で出ていた。
▽江戸時代、御家の末流の気力のない和様に対しての唐様で、細井広沢はこれを唱道してひろめた。いろいろ知った。いいお正月だ。