四月

△おやっと思った。こんな夜中に玄関から出てゆく人がいる。誰だろう、でも家の者だ、じきに戻るに違いない。家内が気がついて起きていった。パッと電灯がついてさがしているらしい。寝床に戻って来たので聞いたら、伜の嫁が産院に行ったという。二分ほどの先にある。私たちに告げないで、産気づいたと知って、こっそりひとりで出掛けたのだった。
△夜明けに安産した。四月六日。女だという。うちにいる上の女の孫は二人のお姉さんになり、下の男はいよいよお兄さんになったわけ。何よりおめでたいことである。私たちおじいちゃん、おばあちゃん、伜夫婦、孫三人、これでさし向き男と女のかずは伯仲だ。
△その夜から上の方はおとうさんと寝る、下の孫は私たちの寝床でやすむことにおちついた。男の方は幼稚園生、朝起きるとすぐに紙をねだる。画をかきたがる。そこらに臥そべって、画想を練るが、筆は選ばない。
△夜はひとりで寝ることが出来なくて、誰かと一しょに話をしたりして、時間が経たないと眠れないらしく、しばらく私と枕を共にして、毎晩絵本を読んでやることになった。
△寝そべって、聞いた本のどこを持つでもなく、私が支えなければならず、孫はふとんのなかに手を入れて、気楽に絵を見、私の読んでいる意味を聞くのである。五冊ときめた。毎晩五冊がつづく。
△幼稚園の斡旋で購入したのがたまっていて、既におかあさんに読んで貰って内容のわかる絵本だと私が読んでいる途中で、次のくだりを先に私に言い聞かせてくれるのであつた。
△家内がやって来る。おじいちゃんとおばあちゃんの間に入って、少し眠りかけた眼をしょぼつかせてながら、新入りのおばあちゃんに会釈する。
    子が出来て川の字形りに
           寝る夫婦(樽1)
 こんな古川柳があった。正解とは別に意地悪い曲解によれば、伜に次の子が出来たので、孫のお守りの応援に、おじいちゃんとおばあちゃんが余念なく面倒見がいい情景ということになる。川の字の両端は、ちと草臥れてはいるが。