二月

△嬉しいことがあれば、ひとりっきりでわかったつもりでいるよりも、みんなで頒け合った方が至極のんびりもするし、また人生のひとときを味わうことになるから、そうしようと思い立ち、大勢の前で八十八歳の増田亮太郎さんを紹介することにした。紹介される方も年の功で、臆せず盃を持ちながら居並ぶ若い者を眺めやった。
△お正月句会だから、少しはいつもと違う顔触れがほしかったし、あまり来ないベテランの久し振りの来会も期待しつつ、新顔を呼び集める方法も考えていた。松本市主催する文化祭に川柳部門が加わって数年、投稿者も漸次多くなって来て、新人らしいひとたちとも、選者をしていると、すぐそこにいるような気がして、呼べば応えてくれるような親しさを感じていたので、早速お便りしてお正月句会新人歓迎を呼びかけた。
△都合で出席できないがとわざわざ投句をして下さった殊勝なひともあった。当日、名乗りをあげて三人見えてくれた。増田亮太郎さんを始め、吉江豊さん、小口九五郎さんである。一別以来といった親近感で応待がとりかわされ、やがて作句に頭をひねった。
△披講したあと、懇親会にうつり私が順次盃をとりかわしながらご機嫌をうかがったとき、増田さんの前に坐りこんで話しこんだ。そのとき八十八歳を知ったのであるが、お正月早々こいつは縁起がいいぞと、お長寿をことほぎつつ、胸のなかではうれしさでいっぱいだった。
△うえにはうえがあるものを、本を読んでいたら「放下自在の境」という題で、皆吉爽雨氏が百歳になる俳人を四国に訪ねる紀行文が目についた。池上如月翁で、八十七歳から句を始め、だんだん力量を発揮して俳誌「雪解」の巻頭に推されるようになって注目を浴びた。耳も目も不分明だが、頓着なく大声で話し出す。「ヤケに生きている」という声が出てくる。
    暑気払ひはらひ過ごして
          酔ひにけり
わかる、句の純粋さだなとはたと膝をたたいた。
△こちら亮太郎さんもこれからだから、如月翁に伍し川柳の方で、ぽつぽつ歩き出すことだろう。みんなも励ましになるに違いない。