一月

△家内の担当の「百趣」から道祖神のことで、ちょっと来てくれと言って来た。道祖神は道の守り神様で、松本地方には名もなき彫師が丹念にきざんだふるい石像が多数あることで知られているが、それに模した木像や石造りが頒布に供されている。
△行って見ると、二人である。私よりちょっと下の弟くらいの年輩で、刺を通じたところによると、アサヒグラフの編集部と写真部の方である。お茶のあしらいをしながら家内の話によれば、写真部の方が昨日来たという。一夜漬けのふたものが気に入って買って行ったが、きょうお連れを誘って来たものらしく、ちょこんと椅子に座っているのである。
道祖神のくだりになると、そこは地元で、通がった陳述に及んでずらりっと目のあたりに居並ぶ道祖神を見る思いがしたらしい。そこで図に乗るのが性分で、Rクラブに講話を頼まれたことから、遠くみちのくの地の同好の人たちに話したくだりを明かすにいたるといかな旅びとのもの好きといえども、うさんくさそうにするかと思うと、さにあらず、次を所望するのである。
△うれしくなると、おかしなもので、のこのこと二階の図書室から古い「婦人朝日」を持ち出して、ここに書いてあるのが私の名などといい気になって示すのである。それは初心者向きの図書の道しるべといった恰好で、どうしたわけか、田舎の私のところに川柳についてお声がかかったわけである。
△詩は深尾須磨子、俳句は山本健吉、カメラは秋山青磁、年鑑は坂西志保、短歌は木村捨録、映画は清水千代太の錚々たる顔触れで、この雑誌を見せたら、すっかり私を持ち上げてくれるのだった。
△何に取材に来たとも聞かず、相手は聞き役専門でちょいちょいメモしている。聞き上手だ。お茶受けに出したかたい甘酸っぱい梅漬けがとても気に入って、家内に漬け方をくどくど聞いていた。
△いろいろお世話になりました近く出るアサヒグラフにちょっと紹介するかも知れないといって、何か買っていったが、果して一月二十四日付の「ふるさとに味あり」に家内と私の事を出してくれた。