二月

△こんなデッカイのを造って、さてどうなるのかなと、初心にかえることをつい忘れ、頭をかしげて見ても、どうも始まらない。弱気を出すと、みんながっかりするから、前向きだと自分に叱咤する。
△屋上にのぼると、日本アルプスが一望のうちに眺められ、豁然たる気概を奮い起させてくれて、山国に生まれ、ここで育ち、ここで長らえることの倖せが胸に来る。あちこち建ついくつかのビルや家々が相呼応し、インフレ下の溜息などつゆさら聞かそうともしないで、実に林然と雑然と鼓舞してくれるようだ。
△私たちの町では殆どが足並み揃えて新築した。それだけに町ぐるみ意気軒昂である。道路は車道と歩道が両側に整備されることになり、まるっきり姿を変えるべく掘り返し、掘りおこして前面通行止めになっている。自転車と人は通れるが、穴ぼこに気をつけないと足をとられることになる。商売はあがったりの状態で、顧客はよその町に行ってしまう。ゆっくりと自由に買える方へ行くのは止むを得ないとして、早く道路を完成してくれるのが待たれる。
△やっと人が通れるようになっても、舗道のタイルが全部敷きつめられないので、砂があちこちたまっていて、家に入って来る人がどうしても履物で砂を持ち運んでくる恰好だから、どこの家でもジャリジャリだらけとなる。
△ピータイルに油を塗りつけて綺麗にしようと思ったが、いまのままでは砂のためにいくらやっても駄目だと考えて後廻しにしているが、よくこんな埃っぽいところに事務所を設けているなとひやかされる始末。
△住まいは三階、ガラス張りの南面から思う存分に陽が入り、この冬は午後、ストーブはいらない暖かさである。日本アルプスが西と南に見え、真っ白い乗鞍岳の山容が偉観である。孫たちは赤い頬をして飛び廻り、からだいっぱい陽を浴びている。ついウトウトとなるのは大人で、孫は遊びに夢中だ。
△私のいる事務所は階下だが、西から入る午後の陽で、電灯は消している。電話の応待は相変らずだがソッケないと告げ口される。