十月

▽マイクに向う。アナウンサーと対談しているうちに電話が掛ってくる。それをアシスタントがいていち早くメモに取り、アナウンサーが復唱し、私に問いかける。
▽あまりいままでやったことのないラジオ川柳番組である。とにかく情報時代の名にふさわしく、スピーデイな運びが魅力だ。スカッとし、即座に批評をして、次の電話を待つ。じりじりしている応募者の顔を思い浮べている暇もないうちに、つぎの電話のベルがレシーバーに伝わり、住所が聞かれ、名前が伝わると、やっているな、精を出しているなと思う。
▽題を出して〆切をきめ、それを選句して順位を発表しながら放送してゆく、それがいままでのラジオ川柳のやりかただった。それとはガラリと変って、一応その月その月に相応した題や、季節にこだわらぬニュース性のあるものが出され、ラジオで告知しておく。
▽とにかく電話で投句することになるから、じかに作者の声を聞きじかに選者が批評する。声と声とのつながりに親近感を覚えて、思わず膝が乗り出すほどである。
▽一度も逢ったことのない人は雑誌のうえでもあるけれど、それが逢ったこともないのに、声で聞かれるということで、なまなましさが出てくるのである。美しい声であり、渋い声であり、荒っぽい声となって、投句箋の原稿紙にしたためられた筆致で受ける感じと違って、耳に流れるスピーチが私のこころをゆれ動かす。
▽流暢な言葉つきで川柳が詠まれると、十七音律のしらべというものがこんなところで生きて来て、こちらまでついうっとりとしてしまうのである。
▽いくつもいくつも来る電話が受け付けられ、女子大学生のアシスタントが思わず汗ばみながら聞きとってゆく。やはり時間の〆切があって、それを整理しなければならない。優秀なもの、佳作なるものを短時間にまとめてゆく。その間、音楽が流れているらしい。私はレシーバーをとって、とりいそぎ入選句に取っ組むのである。
▽疲れることは疲れるが、やはり好きな道、やり通して来ている。ベルが鳴ると、川柳のよき友達がいることをたしかめるのだ。