四月

▽無理強いすることをオシゲするというのは松本地方の方言だが、もう充分いただきましたと、しきりにあやまっているひとに、酔った勢いで相手かまわず無遠慮に酌いでやる。とてもとてもと手でふさいでことわるのも聞かないで、お体裁ぶってなんだ、おれの酌では気に入らないのかと、からんでくる始末。酔わないときはいい人だがと、みんな思っている。
▽これも人の性質で致しかたないとあきらめて、適当にあしらっているうちはいいが、喧嘩腰になって、どんなことをしても飲ませなければ気がおさまらないとなるとこと面倒になる。
▽うちでちびりちびりたしなんでいる方はわりかしおだやかだが、そとに出てとまり木なんかにつかまった鳥のように、バーの方が気が晴れ晴れする御仁にはホームバーは物足らない。ものは考えようというが、酒の飲みかたにもいろいろあって、雰囲気や状況のうえでなかなかデリケートである。
▽どうしてもやめたいと思ってもやめられない。意志が弱いのだという。いままで晩酌をやっていた主人が、ひょんなキッカケで、断酒を思い立ち、急に晩酌をやめたいという。いつものようにお燗ををしてサアと出した奥さんの方がこれを聞いてビックリする。からだでもわるいのじゃないかと、かえって心配をする。
▽酒の話をしただけで顔をボーとあかくし、ほろ酔いになる酒に弱い人があるそうだが、これも体質のせいだろう。のめない人にはあの気分のよさはわかるまいと、ちょっと得意がる。
▽おもしろくなくて、腹いせに盃を重ねるのはまことにいたいたしいが、これで本人はまぎれているのでいいつもり。はらはらこれを見守る側にすれば、からりっとしないのである。
▽いまのところこれといって、からだの調子がわるいわけではないけれど、急に変テコリンになっても困る。何かいい健康法はないものかと医者に聞くと、まず適当に性に合った量で、毎晩酒をやることさ、こうすればおれに診て貰うわずらわしさは少いさ。そういっておいて、医者は自ら範を示したく晩酌をたのしんでいる。