二月

▽鉄道地図を開いて見てこんなところに行きたいと思つたりする。いらだたしく、いそがしい日々を暮らしている現在、なかなか旅に出られそうもない。
▽もつとくわしい地図となると、学校で使つている教科書に頼るわけだ。それで見ると松本あたりは平野の緑は全くなく、でこぼこを示す茶色を塗りたくられている。実際は松本平とか、善光寺平とかいつて割りに平らかところがあるのに、地図だけを見るとまるで山深い辺鄙な土地で、電灯もないようなところと思うかも知れないけれど、これで結構、十時から十一時の交通の最も混雑をする頃になると、自動車が長々とつながり、乗つている者は舌打ちをして焦燥を感じたりする始末だ。
▽たまに横須賀にいる孫が遊びに来る。オシツコ、ウンコとなるとオバアチヤマが嬉々として介添いしてやるが、水洗で「ウンこちやさんさようなら」と合図すると、孫も心得たもので「バイバイ」といつて名残り惜しげにわが小さな遺物を見送る。この町内で水洗トイレのないところは絶無といつてよいほど普及している。
▽電光ニユースのちかちかするトツピクを仰ぎながら、わが愛犬と連れ立つて夜の街をテクる。つめたい冬の感触がいたいが、少し酒の入つているからだにはかえつて快いことがあるから、愛犬もご主人の機嫌に似合つてぐんぐんと鎖を引つ張る。どこでもそうだろうが、アベツクらしいのは大抵、腕と腕を組み合つて歩いている。妙に背の高いのと、背の低いのに出逢うが、十人十色、あれでうまが合つている証拠だろう。
▽まるつきり同じ服装で、からだつつきも殆ど殆ど等しい娘さんがふたり手をつないで通る。年頃だから仲のよい姉妹に見えて来るのであある。ひとりが小脇に抱えたのは、姉の方の結婚がきまつて、いくつもの思い出の写真を姉妹むつまじく記念におさめるためのアルバムだろうか。そんなことを想像して夜の散歩はたのしい。
▽信州のおいしい大気のなかで、夜空の美しさにたまらなく愛着を覚えつつ、わが愛犬と共にある自分を見つけるのである。